タナトフォリック骨異形成症1型、2型(旧疾患名:致死性骨異形成症) thanatophoric dysplasia (TD) (MIM 1型#187600、2型#187601)

この章は医療関係者を対象として記載していますので一般の方には少し文章は難解です。

 

致死性骨異形成症からタナトフォリック骨異形成症への名称変更の背景

 

 当研究班では日本整形外科学会の小児整形外科委員会 骨系統疾患和訳作業ワーキンググループに対し、thanatophoric dysplasiaのこれまでの和訳である「致死性骨異形成症」について、以下の理由から再検討して欲しいと要望しました。
1) 医学的には必ずしも致死性ではなく、疾患名が実情を反映していないこと。
2) 妊娠中に胎児が「致死性骨異形成症」の診断または疑いとされた場合に、両親がまだ生まれていない我が子に対して妊娠中から否定的な印象を抱く懸念があること。
3) 長期生存児の家族にとって、日々接している我が子の病名が「致死性・・・」ではやりきれない思いを抱かせること。
4) thanatophoricは古代ギリシア語を語源とし英語の意味はdeath bearingやlethalとされているが、米国では疾患名はあくまでthanatophoric dysplasiaであり、古代ギリシア語を英語に翻訳しているわけではない。日本のように「致死性」と自国語に翻訳すると、その意味が患者家族に外国語のままよりも直裁的で強く伝わること。
 同WGで検討の結果、thanatophoric dysplasiaについては「タナトフォリック骨異形成症」の和訳を当てはめることに決定されました。

要約

 

 タナトフォリック骨異形成症 thanatophoric dysplasia: TDは重症の四肢短縮を示す先天性骨系統疾患で、通常は周産期において致死的とさています。TDはI型とII型に分類され、I型は弯曲した大腿骨を伴う著明な四肢長幹骨の短縮が特徴的です。またII型はまっすぐな大腿骨を伴い、I型よりも短縮の程度は軽度のことが多く、一方でクローバー葉頭蓋 Kleeblattschaedeと呼ばれる側頭部が突出した特徴的な頭部がみとめられます。クローバー葉頭蓋はまれにI型でも認められることがあります。I型とII型に共通する特徴は、短肋骨、胸郭低形成、巨大頭蓋、前頭部突出や鞍鼻など独特な顔の特徴、短指症、四肢短縮により相対的に余剰となった皮膚のひだ等があります。周産期死亡は子宮内胎児死亡は比較的少なく、最も重症の児は、死産や生後間もなく呼吸不全で死亡することが多いです。しかし近年の呼吸管理の進歩により長期生存する報告も散見されるようになりました。

 

 疾患の原因は線維芽細胞増殖因子受容体3遺伝子 fibroblast growth factor receptor 3 gene: FGFR3遺伝子の変異によるもので、原因となる変異は、I型TDでは90%以上、II型TDではほぼ100%変異を認めます。確定診断は出生後の単純レントゲン診断によりますが、FGFR3の遺伝子診断による確定診断も可能です。

 

 TDの診断は出生前は超音波検査が中心で、必要に応じて胎児CTや遺伝子診断を行います。出生前診断で胎児がTDと診断された場合、早産、羊水過多症、胎位異常、巨大頭蓋による分娩障害などが予測されます。出生後の新生児では気管内挿管のうえ人工呼吸を行うことで長期生存が可能な場合もあります。しかし治療をどこまで積極的に行うかについては、医学的・倫理的側面はもちろんですが、実際にお子さんを育てるのはご両親ですので、相当程度はご両親の希望も汲んだうえで決定する必要があるでしょう。

 

 TDは常染色体優性遺伝であすが、罹患者の大多数はFGFR3の突然変異です。親から遺伝するわけではなく、また罹患児を1人持った両親が、再び同じ疾患の子を持つ確率は、ほとんど一般頻度以上に増えることはなく、一般の人口集団で発症する確率とほとんど同じと考えられます。