軟骨無形成症achondroplasia (ACH) (MIM #100800) /軟骨低形成症hypochondroplasia (HCH) (MIM#146000)
この章は医療関係者を対象として記載していますので一般の方には少し文章は難解です。
a.原因
AD。ただし、ACHでは患者の80%は新生突然変異とされる。線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor
3)遺伝子の点突然変異により発症する。約98%はcDNA番号1138G>A変異を示し、約1%は同G>C変異を示すが、いずれもアミノ酸では膜貫通領域に位置するGly380Arg変異を引き起こす。HCHは臨床症状が軽症のためと遺伝的異質性、すなわち類似したレントゲン像を示す病態が幅広くあることから、疾患概念がACHに比べて確立しておらず、臨床的にHCHと診断されたもののうち約70%にFGFR3遺伝子変異を認める程度である。FGFR3遺伝子変異のうち最も多いのはアミノ酸で近位チロシンキナーゼドメインに位置するAsn540Lys変異を引き起こすもの(72%)で、cDNA番号1620C>A変異と同C>G変異が7:3の割合である。他にも同遺伝子の数カ所に変異が報告されている。これらのFGFR3遺伝子変異は受容体の機能亢進(gain
of function)を示し、軟骨内骨化に対しては抑制的に働くことで、長管骨の伸長を妨げる。
ACHの出生頻度は26,000-28,000人に1人程度とされている。HCHの出生頻度は明確でないが、おそらくACHの頻度に近いものと推測される。父親の年齢が高いほど頻度が上昇するとされる。
b.再発率
ACHでは患者の80%は新生突然変異とされ、ACHの児の8割が健常な両親から生まれている。両親のいずれかが罹患している場合には、子は50%の確率で再発する。また両親ともにACHに罹患している場合は、健常な子が25%、両親と同じACH罹患児が50%、タナトフォリック骨異形成症に類似した重症型のホモ接合体のACH罹患児が25%の確率で生まれる。健常な両親からACH罹患児が生まれる可能性は、上記の出生頻度から20,000人に1人程度と思われるが、性腺モザイクによる健常な両親からの罹患同胞の再発が0.02%程度あるとされている。浸透率は100%なので変異遺伝子を受け継ぐと間違いなく発症する。
HCHについては明確ではないが、臨床症状が軽いため、ACHよりは遺伝性の割合が高いと推測される。
c.臨床像
ACHもHCHも症状の重症度が異なるだけで、臨床像は類似している。ACHは比較的均一な臨床像を示す。
ACHは四肢の近位肢節(上腕骨や大腿骨)の著明な短縮による四肢短縮型低身長を示す。頭部は前額部の突出、鼻根部の陥凹、顔面中央部の低形成、下顎の突出、頭囲の拡大などを示す。脊椎では腰椎前弯と臀部の突出が見られる。三尖手(trident hand)が特徴的で、妊娠中の超音波検査でもしばしば診断の決め手になる。肘や股関節の伸展障害も見られる。
X線所見では太く短縮した長管骨とその(特に大腿骨の)骨幹端の杯状変形(cupping)が特徴的で、この所見は特に出生時には大腿骨近位部の透亮像として、三尖手とともに診断の決め手になる。
HCHでは基本的には上記のACHの症状を軽症にしたものとなるが、臨床所見は多様性があり、ACHに近い重症型から非常に軽症なものまである。軽症例では体質的な低身長との鑑別が困難な場合もある。
治療は整形外科的な骨延長術と成長ホルモン投与が行われる。合併症に対しては水頭症のシャント手術などの対症的な治療が行われる。
d.遺伝カウンセリング
両親のいずれかがACHに罹患している場合は、浸透率はほぼ100%なので、50%の確率で罹患児が出生する。
両親のいずれもが非罹患者の場合でACHの患児が生まれた場合は、突然変異によるものの可能性が極めて高いが、まれに性腺モザイクによる同胞再発が報告されている。
HCHについては遺伝的多様性があり、FGFR3遺伝子変異が検出されていない孤発例では遺伝性の確定は困難である。
出生前診断は超音波検査で大腿骨長の短縮が妊娠22週頃から検出されるが、両親がいずれも非罹患者の場合は、標準的な大腿骨長から外れる時期はさらに遅れることが多く、妊娠28週頃以降で初めて指摘されることもある。また羊水や絨毛を用いたFGFR3遺伝子検査も技術的には可能である。